#掌編 — Public Fediverse posts
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第十夜『図書館の本』
――こんな夢を見た――
図書館の本棚の前に立っている。棚の中にはありとあらゆる種類の本が収められている筈なのに、私の探している本だけが、どこにも見当たらない。たった一度だけ借りた事のある本。その内容を思い返そうとしてみても、何故か記憶を掘り起こす事が出来ない。周囲を見れば、私と同じように怪訝な表情をして、同じ本を探している様子の者たちがうろついている。
ほつれた記憶の糸を手繰り寄せると、本の姿かたちが感触を伴って手元に現れはじめた。そうだ、あれはとても手摩れの激しい本だった。数多くの人がそれを読み漁っていたのだろう。表紙は汚れ、頁が破られ、落書きも目立っていた。そして、真新しい本につきもののインクの匂いとは対照的に、人々の生活の匂いを吸い込んでいるような、古ぼけた本だった。誰もが手に取って読みたがり、競い合うように借りられていた。そんな本であった事だけは間違いない。だが、何故なのだろう、やはり肝心の本の中身……記されていた内容に関しては、まるで思い出せない。
一体、あの本はどこへ消えてしまったのだろうか。行方知れずの本を探す為に司書のもとへと向かったが、司書ですらも首を傾げている。残念ながらそういった本の記録は残されていない、という返答だった。しかし、私と同じようにその本を求める者は居るのだ、と。
記憶の引き出しをかろうじて開いてゆき、どうにか見当をつけて、私は本棚の一つへと近付いた。注意深く棚を見ると、密集した本と本との間にごく細い隙間が空いており、その隙間だけがあの本の存在を物語っているようであった。物語っている……ようやく私は思い至った。そうだ、あの本が消えてしまった時、この本棚には隙間が生まれたのだ。そして今、この隙間に存在しているのは、あの本をひとときでも愛した者たちの感情だ。私が忘れてしまったのは、本の内容などではなかった。本棚の隙間へと向けられた、ある種の感情だ。
そう確信した瞬間、本棚も図書館も煙のように消え失せた。しかし、私は最早その本を探そうとは思わなかった。ただ、その本に対する懐かしい感情だけが、愛しい傷跡のように残されていた。
――愛した図書館の閉館日に、そんな夢を見た――
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第九夜『渦の外』
――こんな夢を見た――
港町の海岸で大きな津波に飲み込まれ、浜辺に打ち上げられた。自分だけが生き残ったのだろうかと首を傾げながら、人の姿を探す。だが、辺りには誰も居らず、生きた者の気配すら見当たらない。がらんどうになった町を歩いてゆくと、もの言わぬ建物、点滅する街灯、静まりかえった路地、そういったものだけが残されている。通りや民家の庭先に点在する草木だけが、その形を保ったままで物静かに在るように思われた。
街中を歩き回り、ありとあらゆる場所を探し尽くしても、誰の姿も見当たらない。諦めて元の海岸へ戻ってくる。沖を見渡せば、渦潮が発生しており、海はやけに美しい紺碧色をしている。じっと眺めていると、渦潮はゆっくりとその規模を増しながら、こちらへ近付いてくるようだった。この不毛の世界に一人きりで取り残されることに比べれば、あれに呑み込まれる方が余程ましというものだ。それならば、私はここであの渦潮を待てばいい。
海岸で、私は長い時間を過ごした。数時間だったかもしれないし、数十年だったのかもしれない。一人きりでは意味を持たぬのが、数字というものだ。人が、生活を営む者たちが消失した世界で、風景はどんどん美しくなって、ただただ眩いばかりだ。海岸には名も知れぬ羊歯植物が生い茂り、港町は風化してゆく。渦潮はますます規模を増し、今や海全体が大きな渦そのものに見える。ああ待ち遠しい、少しでも早くあの渦に呑まれてしまいたい。ここで待っているから、早く私を迎えに来ておくれ。
海岸へと這い寄り、まさに今、私を呑み込もうとしていた巨大な渦潮が、突如として動きを止めるのを見た。私は初めて自分の役割を知った。いつ終わるともしれない世界の変容を、たった一人で見届けねばならない事を。この渦潮に呑み込まれて自身が終わりを迎えることは許されないのだという事を。私が孤独感で涙を流したのは、それが最初で最後であった。
――誰も居ない海岸を歩いた日に、そんな夢を見た――
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久々に物書きしました。
以前の1時間SSで書いたものの続きをハッピーエンドで終わらせられてほんと良かったー。
洗濯機な彼女 2
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=23658886
洗濯機な彼女 3
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=23662624
#pixiv #一次創作 #掌編 #ブックサンタ2024 #fedibird -
第八夜『地中より』
――こんな夢を見た――
地面に埋まりながら街を見上げている。地中に張り巡らされた細い根に身体を絡め取られながら、ただただ街を見上げている。貧弱な土地の上には、継ぎ接ぎだらけの張りぼての建物が、玩具のようにばらけながら群れて伸びている。がらくたの街の建造物が、あれ程までに高く高くへと伸び続けているのは何の為なのか。疲れ果てた者たちを天へ届かせる為だとも言えよう。
地面に埋まったままで、相も変わらず街を見上げ続けていると、建物は更に高くへと伸び続けており、どうやら高さを以て、星よりも眩い光を遙か上空から見下す為のようである。多くの細い根に身体を絡め取られながらも思案する。羽根を持たぬ者たちが、地を這って生きるすべを持ち過ぎるのは、果たして幸福な事であろうか。地表からの「地上で溺れるのは人間だけなのだから、鳥だって今頃は魚と一緒に泳いでいる時代さ」という笑い声が、根を伝って響いてくる。
更に時は流れ、地面に埋まりながら半ば木の根と一体化したような状態で、がらくたの街を凝視する。すると、消え入る寸前の細い月と小さな星とが、建造物の群れを弱く照らしている。窓には赤青緑黄黒の無個性なセロファンがはためく。通りを歩く靴音は皆が一様に造りもののような硬質だ。蓄音機は同じ曲をノイズと共に延々と繰り返す。人々は全てが真っ黒の影絵で顔が無い。
隙間からごく弱い光が降ってくる地面に埋もれ続けている。あまりにも身体に木の根が絡み付いているので、自分までもが人間の形を失って根になったようである。ありとあらゆる場所へ、網の目のように根は張り巡らされているのだろうか。私の根は一体どこへ、何へと繋がっているのだろうか。何一つ解らないし、解けない。
あまりの窮屈さに嫌気がさして、「この世で最も美しいのは隙間から見える光だ」と吐き捨て、身体に絡み付いた細い木の根を掴みながら、夢の瞼を閉じた。
――電子の海で溺れてしまった日に、そんな夢を見た――
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第七夜『青の包囲』
――こんな夢を見た。
「空」と呼ばれている場所に居る。自分が浮いているのか沈んでいるのかはよく分からないが、辺りには湿った空気が充満している。重く満たされ続けて弾けそうな気配が、どうにも息苦しい。やがて、雨粒と化した水が落ちてゆくのを見た。
降下したあの水滴は、ただただ落ちて消え失せるのだろうか。その行く末を案じていると、見下ろした地表には水が張られている。あれは確か「沼」と呼ばれているものだ。水が満ちているのならば、きっと雨粒もそこに同化するのだろう。「沼」の色が、落ちてきた雨粒に染まってゆく。青い。
頁を捲られるような感触で我に返れば、「海」と呼ばれている場所に居る。辺りは潮の匂いに満たされている。遠く浅く気怠く続いている海には、波がとんと見当たらず、気味が悪く思える程に妙に穏やかだ。波風が立たない状態の、異質な「海」なのだ。
波が存在しないのであれば、どこまでも遠くへ行けるだろうかと、海の上を歩いて渡ってゆく。足元で泳いでいた魚の群れが、次々に鳥へと姿を変えて飛び去ってゆくのを見た。鳥を捕まえようと手を伸ばした先には、先刻の「空」が広がっている。ああ、お前たちもあの雨粒と同じように、そこへ同化するのだろう。辿り着いた鳥たちの羽根が、「空」と同じ色に染まってゆく。青い。
また、頁を捲られる感触がした。何やら一糸纏わぬ姿を晒しているようで、ひどく居心地が悪い。人の姿を保つのが困難に思えて、身を硬くしていると、青い空と青い海が上下から……いや、四方から迫ってくる。栞を挟んでいた愛おしい記憶の頁には、もう戻れない。
ああ、このようにして、世界の殻はいとも容易く割れてしまうのだ。例えこの青い夢の底が抜けたとしても、そこも既に包囲されており、私はすっかり青ざめているというのに。
――白い病室で過ごした夜に、そんな夢を見た――
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第六夜『身代わり』
――こんな夢を見た――
目の前に男が立っている。男は群衆に囲まれており、救世主に救いを求めるが如く、男に向かって多数の手が伸ばされている。我先にと延べられたそれらの手を男は決して振り払わないが、自らの手を人々に差し出す事もせずに笑んでいる。私は群衆の輪の外からただ男を眺めている。
やがて、徐々に波が引くように人々のざわめきが止むと、男の顔からは笑みが消え去った。
「僕は常々思っている。僕は誰かの"身代わり"であるのだと。僕を訪れる君たちが本当に欲しているのは、真に想う者からの愛であるのだとね。失われた親兄弟からの愛、ちくはぐな伴侶からの容認、片恋の相手からの色好い返答、一方通行の友情の宛先……そういったものだろう」
悲壮な音楽を奏でるように言葉を口にする男を取り囲んでいた群衆が、次々に手を引いてゆく。彼らとは真逆に、私は男へ近付こうとした。
「これは例え話だが、想う相手から君たちが真に欲している愛を貰えたとするね。その時、僕は一体どうなると思う? ……はは、そうさ、僕は君たちに引きずり込まれた暗い世界に置き去りになるんだよ。愛の捌け口でしかない僕はとうに枯渇してしまっているから、その暗い世界に一人で在り続けるんだ。君たちと歪な形で縁を結んだ結果として、僕はただただ消耗して枯渇してゆく」
群衆は一様に口を閉ざし、男を取り囲んでいる輪が少しづつ綻んでゆく。私は輪の隙間から男のもとへと向かう。
「僕が愛を与えたとて、君たちは決して満たされやしないんだ。身代わりである僕は、君たちの中には決して存在し得ない存在だ。仮に生きる希望とやらが湧いた挙げ句、真に欲している愛を得たのならば、それは結構なことだ。明るい場所へと旅立つのだから、僕は君たちへ祝福を贈ろうじゃないか。それもまた僕の本心だ」
群衆は離散を続け、今や男の周囲には逃げそびれた、といった表情の者たちしか残ってはいなかった。私はようやく男のもとへと辿り着く。
「だが、僕だけは相変わらず真っ暗な世界に居る。その闇は深度を増し続けているし、次第に僕を崖っぷちへと追いやってゆくだろう。あらゆる出来事は、君たちが僕を身代わりとした結果として、必然的に僕を取り巻いている。僕の居るこの暗闇から見えるのは、祝福された君たちの穢れなき姿だけだ」
男の周囲にはもう誰の姿も無く、私だけが居る。だが、目の前に立っている筈の男の顔が見えない。これは一体誰なのか。
「君も彼らの仲間なのか? それとも君には僕の姿が見えているのか? どちらだって構わないさ、真実は闇の中だ」
そう言って、男は完全に色を失った目で私に手を差し出してきた。その手を取った時、私は男の顔を初めて見た。自分と全く同じ顔をした男の顔を。
――鏡を一度も見なかった日に、そんな夢を見た――
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第五夜『不眠バー』
――こんな夢を見た――
目が冴えて眠れないので、外に出ることにした。繁華街の人混みを避けて大通りの角を曲がり、ビルの隙間へと滑り込むと、不規則に明滅を繰り返す看板が目にとまる。慢性的な疲れに霞んだ目で、書いてある文字を拾う。どうやら「不眠バー・ネムラズ」という店名らしい。もしや、不眠症の人間の為に開かれている店なのか、それとも不眠に効く何かを提供してくれる店なのか。
好奇心をくすぐられて店に入ると、ドアベルの音が夜に溶けてゆく。夏の風鈴を思わせる音に、頭が少し冷える。店内にはぽつぽつと人の姿があるが、誰もが目の下に隈を作っており、ぼうっとした表情でどこか遠くを見ているようだ。カウンター席に腰掛けてみるが、グラスを磨いているマスターには顔も声も存在しないように思われた。
無言で差し出されたメニューを見れば、飲み物ばかりだった。酒以外のものも多い。「宵闇ブランデー」「陽炎ウォッカ」「朝焼けジン」「黄昏ウィスキー」「夕暮れテキーラ」「薄曇りラム」「木漏れ日ワイン」「霧雨ビール」……「月光カプチーノ」「流星ミルクティー」……「逃げ水カクテル」は夏季限定か。試しに「黄昏ウィスキー」を頼んでみる。
目の前に置かれたショットグラスの「黄昏ウィスキー」を煽ると、アルコールの酔いだけではない、遠く強い郷愁を呼び起こされるような感覚に襲われた。人生の黄昏時、その反対側にある記憶が風景と共に訪れる。目眩にも似た感覚。恐らく、今の自分は他の客と同じく、ひどく気の抜けた表情をしているのだろうが、ああ、それで構わない。ゆるやかで懐かしい酩酊は続き、急激な眠気と共にぷつりと意識が途切れた。
目を覚ませば、そこは自室のベッドの上だ。ぐっすりと眠った確かな感覚がある。財布を確かめても金は減っていなかったが、おかしな事に名刺が一枚も見当たらない。ああ、私はきっと顔の無いマスターに名を奪われてしまったのだろう。その代わりに与えられたのは、遠い記憶をカクテルのように混ぜ合わせた安眠だ。きっと私はまた「不眠バー・ネムラズ」を探すのだろう。
――上手く眠れなかった日に、そんな夢を見た――
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第四夜『星の木の下で』
――こんな夢を見た――
「この、金色の瞳をした猫は、星の実を食べて育ったのです」と誰かの声がする。声の主を探すが、ぼんやりとした影しか見当たらない。にゃあ、と猫の鳴き声も聞こえたが、それがどこに居るのかも判らない。
私が両の目を手で擦っていると、相手はこう続ける。「この猫は、まだ幼かった頃から私と同じ時を生きたがっておりました。……だから、私はこの猫に、あの星の実を食べさせたのです」そう言って、その人影が指差す方向を見れば、そこには一本の木が生えており、淡い不思議な色の実を幾つかつけていた。その実は大層変わった形状をしており、まるで星のようにぴかぴか光っている。
「あの、金色の実を食べ続けたこの猫は、今ではもう天の星よりも遠くに居るのです」と、顔も判らぬ誰かが自嘲するように言葉を続ける。「私はきっと、この猫よりもずっと早くに死ぬでしょう。だが、私の往く道からは遠過ぎるものへと姿を変えてしまったこの猫は、私よりもずっと、ずっと長く生きてしまうことでしょう。この猫の望んだ願い事は、この猫が食べてしまった星の実の数には沿わなかった。だから、私とこの猫は決して共に往けはしないのです」
声の主の話に寄り添うように、にゃおう、と悲しげな猫の声が聞こえてくる。私は思い切って尋ねてみた。「星の実が生っているあの木の名を、どうか教えて下さいませんか」
あの不思議な木の名前が判ったなら、ぴかぴかと光る星の実を他所から沢山採ってきてやれるかもしれない。それが一体誰であるのかは知らぬが、それをこのぼやけた影の主に食べさせてやればいい。そうすれば、この影と未だ姿の見えぬその猫とは、共に道を往けるに違いない。私はそう考えたのだ。
すると、哀しい歌を口ずさむように、見知らぬ誰かのぼやけた影が応える。「いいえ、あの木が何の木であるのかは、私も知らないのです。そうして、あの木があるのはこの場所だけで、星の実はあれきりです。私が食べるには、とても数が足りません」にゃあぁ……と猫の鳴き声がした。それは、深く何かを諦めてしまったような鳴き声だった。返す言葉もなく、私は押し黙る。
ぴかぴかと光る実をつけた星の木から、沈丁花と白木蓮と蝋梅が混ざったような、甘い匂いが漂ってくる。私が黙り込んだままで居ると、ぼやけた影の主は背をかがめ、金色の瞳をしているというその猫を愛しげに撫でるような仕草をして名を読んだ。にゃあ、と甘えるように猫が鳴く。
途端に、その影と猫は、闇に溶けて消えてしまった。ならば、あの星の木はどこかと辺りを見渡しても、私にはもう何ひとつ見えはしなかった。
――星のない夜に、そんな夢を見た――
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第三夜『年輪レコード』
――こんな夢を見た――
かつて森林だった場所を歩いている。辺りは閑散としていて昔の面影はない。しばらく行くと、古い切り株がぽつりと佇んでいるのが見えた。その姿に惹かれて歩み寄り、薬指で切り株の表面にそっと触れてみると、何かが聴こえてきた。そよぐ風と葉擦れ、鳥たちの羽音やさえずり、静かな川のせせらぎ、土の匂いを孕んだ雨粒、様々な音がどっと私の中になだれ込んでくる。私はこの音を確かに知っている。
だが、切り株から指を離した途端にそれら全ての音は途絶えてしまった。再び切り株……その年輪に触れてみれば、やはり懐かしい音はどこからともなく奏でられる。更に耳をそばだてていると、声が聴こえてきた。年老いて嗄れた声は語り出す。
「その年輪はレコードで、あなたの薬指は針なのです。かつてこの木が聴いていた音が、そこには刻まれています。耳で聴くのではない、あなたの心臓で聴いているのです。だから、心臓に一番近い薬指で触れた時にだけ、音が聴こえるのでしょう」
私が再び薬指を年輪へと落とすと、なるほど、心臓に向かって音が流れ込んでくるのがはっきりと感じられた。豊かで満ち足りた感覚ごと、音が奏でられている。だが、それも束の間のことで、指を離せばそこには切り株と共に静寂があるばかりだ。
繰り返し演奏を聴き続けた私がそこから立ち去ろうとした時、老いた声はただ穏やかに告げた。「全てはいつかここにあった筈の、幻です」……それきり声は途絶えた。
私が再び切り株の年輪に触れてみても、もう何の音もしなかったが、ほんの一瞬、立派な大木の姿が見えた。暖かな陽射しを浴びながら、木は嬉しげに枝葉を揺らしていた。
――木々が眠る季節に、そんな夢を見た――
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第二夜『七月曜日』
――こんな夢を見た――
例年通り、いつも通りに巡ってきた七月。壁のカレンダーを捲れば、1日から31日まで……日曜日から土曜日までの七つの曜日が、規則正しく順番に並んでいる。
日・月・火・水・木・金・土の繰り返しで、間違いなく並んでいる……その筈だった。しかし、カレンダーの中の一列に違和感があるように思われた。顔を近付けてよく確かめてみると、その列だけ曜日が八つに増えており、何かがおかしい。月曜日から数えて数個めの一つ、そこに、見知らぬ曜日が増えていた。「七」という文字が書いてある。それに気付いた瞬間、私は思い至った。
ああ、これは"七月曜日"だ。そもそも"七月曜日"とは何だったか。そうだ、確か七月を探す為の日……だった筈だ。早めに七月を見つけておかねばならない。さもないと、私の七月が私とはぐれて消えてしまう。そういった決まりがあった筈だ。そこまで思い出し、私は七月を探しにゆく為に外へ出ることを決めた。
部屋のドアを開けた途端に、眩い陽射しが視界に飛び込んできた。入道雲の下を吹き抜ける風が肌を撫で、ざざんと打ち寄せる波音が砂浜の熱を伝え、濃密な草いきれの匂いが鼻に届き、蝉時雨が耳元に降ってくる。
そうか、開けたドアの先は七月へと、夏へと続く道そのものなのだ。それならば、私の七月が行方知れずになったりはしないだろう。探すまでもない。"七月曜日"も本来は必要のないものだ。そう思って後ろを振り返れば、壁のカレンダーから「七」の文字は消えており、部屋の中にはもうすっかり、七月が満ちていた。
――七月が始まったばかりの日に、そんな夢を見た――
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第一夜『夜色ベンチと夜色猫』
――こんな夢を見た――
裏通りにあるそのベンチは夜色をしていた。暗闇の中で、まるで目立たぬ存在だった。黒であり闇でもある夜色で、誰かがそこに腰を掛けて休息をとる事はない。ベンチとしての役目を果たさぬまま、誰を待つでもなく、ただそこに存在していた。誰にも、何者にも気付かれず、延々とそこに佇んでいた。
ある夜、裏通りを歩いていた一匹の猫が、夜色のベンチへと目を向けた。その猫もまた、ベンチと同じ、黒でもあり闇でもある夜色をしていた。その猫がそのベンチに気付いたのは、偶然であり、必然でもあった。
夜色の猫は、夜色のベンチに近付いて、前脚で木目を撫でた。風雨に曝され続けたそれはひどく冷たくて硬い手触りだったが、夜色の猫はそれが気に入って、尻尾を揺らした。真っ暗な空から、ぱたぱたと色の無い雨粒が落ちてきた。夜色の猫は夜色のベンチの上に丸くなり、ひんやりとした雨を受けながら、短い時間を過ごす事にしたようだった。そこには、雨以外の音は存在しなかった。
夜色のベンチと夜色の猫。同じ色を身に纏ったふたつの存在は、ほんの僅かな時間で互いに満ち足りていた。誰にも、何者にも気付かれずに、ただそこに存在していた。僅かな時間がまるで永遠であるかのように、ふたつの存在が愛おしく交わる世界が、暗闇の中にぽつりとあった。
雨が降り止んだ時、そこにはもう夜色の猫の姿はなく、裏通りの暗闇の中には夜色のベンチが佇むばかりだった。
――夜がやけに長かった日に、そんな夢を見た――
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『星の塔』
星の塔に住まう少女は、
塔の天辺に立ち、
足元に積み上げられた幾多の星を
今宵も夜空に飾る。慈しみ深き少女は、
真っ暗な闇の布地へと、
光る星を貼り付けてゆく。最初はよく光る一番星。
その次は一等星、二等星、三等星……小さく灯るは屑星達。
欠片をざっとばら撒けば、天の川。
取り零したものは、空を駆け抜ける箒星。星の塔には、少女の他に誰も住まない。
堅く閉ざされた塔の中、
少女は初めから終わりまで独りきりでも寂しくはない。星に埋もれて星を手にした少女は
ただ白く無垢で、
言葉も持たずに静寂を唄っている。
日毎夜毎に飽きる事なく
繰り返し、繰り返し。少女がどんなに星を飾ったとて、
夜の最果てよりも遠い場所にある星の塔は、
少女の爪先程にしか、
その高さを変えはしない。それでも少女は待っている。
持てる全ての星を夜へと貼り付け、飾り終える時を。
高さを失くした塔を降り、その手が温もりに触れる日を。
風に乗ったその透明な声が、
緑を芽吹かせ水に流れ、色彩豊かに唄を奏でる事を。星の残り火を宿した少女の指先が、
仄かに光って闇に溶け、遥かな時を数えている。
日毎夜毎に途切れる事なく
指折り、指折り。星の塔には少女の他に誰も住まない。
堅く閉ざされた塔の中、
約束の時を待って居られるから、
少女は初めから終わりまで独りきりでも寂しくはない。星の塔に住まう少女は、
塔の中に横たわり、
周囲に積み上げられた数多の星の中、
光に埋もれて眠りながら、
遥けき地上の夢を見る。 -
『星灯し』
飛べない少女は夜の番人
小さな手には旧い燭台
ちらちら輝く炎を分かち
星を灯して夜空を飾る少女の背中の無垢な羽根
夜を彩る願いを胸に
眠る者たちを見守れば
灯された星が光りだす時には地上に憧れる
少女のわずかな気紛れで
灯された星が結ばれる
南十字は誰のため?聡明なへびの誘惑に
天秤が揺れてしまっても
さそりの毒にあてられて
竪琴の弦がちぎれても弓ひくケンタウルスの姿に
獅子が勇気を失くしても
恋に泣いている乙女に驚き
御者が去ってしまっても闇を照らす祈りを胸に
少女は星に火を灯す
背中の羽根は小さくて
どこへも行けはしないのにか細い手のひら星くずを
夜空へ散らして遊んだら
金色の髪にふんわりと
光のかけらが降り積もる眠る者たちを見守って
闇夜にぽうと浮かんでる
大きな小さな星たちで
少女が夜空に描いた夢朝が訪れるその度に
灯された星の火は消える
覚める者たちを見送って
巡り来る夜を待っている小さな手には旧い燭台
ちらちら輝く炎を分かち
星を灯して夜空を彩る
飛べない少女は夜の番人 -
㊗️ #静マル 今日から開催🥳
3日間よろしくお願いします🙏✨📚静岡文学マルシェ@ PLAY BALL! CAFE 2
🗓2023年10月20日(金)〜22日(日)
⌚12時〜17時(22日のみ12時~16時)
🗺静岡県焼津市栄町4丁目2−6#twnovel #掌編 集『#言葉を編む時間』と、いつも通り名刺とお邪魔してます。
静岡でも良いご縁がありますように🥰公式X(旧Twitter):https://twitter.com/shizubun_marche
公式サイト:https://shizumaru.info/ -
【遥飛蓮助名義の活動にて(@szkhkzs)】
🥳#静マル 委託参加します🎊
📚静岡文学マルシェ@ PLAY BALL! CAFE 2
🗓2023年10月20日(金)〜22日(日)
⌚12時〜17時(22日のみ12時~16時)
🗺静岡県焼津市栄町4丁目2−6#twnovel #掌編 集『#言葉を編む時間』と、#ペーパーウェル11 参加折本でお邪魔する予定です。
静岡でも良いご縁がありますように🥰公式X(旧Twitter):https://twitter.com/shizubun_marche
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#俺の本を読め !サークルスペースいただきました٩(ˊᗜˋ*)و♪
8月19日~20日に【き-5】で、 #twnovel #掌編 集 『#言葉を編む時間』と過去折本でお迎えします!
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『星灯し』
飛べない少女は夜の番人
小さな手には旧い燭台
ちらちら輝く炎を分かち
星を灯して夜空を飾る
少女の背中の無垢な羽根
夜を彩る願いを胸に
眠る者たちを見守れば
灯された星が光りだす
時には地上に憧れる
少女のわずかな気紛れで
灯された星が結ばれる
南十字は誰のため?
聡明なへびの誘惑に
天秤が揺れてしまっても
さそりの毒にあてられて
竪琴の弦がちぎれても
弓ひくケンタウルスの姿に
獅子が勇気を失くしても
恋に泣いている乙女に驚き
御者が去ってしまっても
闇を照らす祈りを胸に
少女は星に火を灯す
背中の羽根は小さくて
どこへも行けはしないのに
か細い手のひら星くずを
夜空へ散らして遊んだら
金色の髪にふんわりと
光のかけらが降り積もる
眠る者たちを見守って
闇夜にぽうと浮かんでる
大きな小さな星たちで
少女が夜空に描いた夢
朝が訪れるその度に
灯された星の火は消える
覚める者たちを見送って
巡り来る夜を待っている
小さな手には旧い燭台
ちらちら輝く炎を分かち
星を灯して夜空を彩る
飛べない少女は夜の番人
#掌編 #詩 #物語 -
星の塔に住まう少女は、
塔の天辺に立ち、
足元に積み上げられた幾多の星を
今宵も夜空に飾る。
慈しみ深き少女は、
真っ暗な闇の布地へと、
光る星を貼り付けてゆく。
最初はよく光る一番星。
その次は一等星、二等星、三等星…小さく灯るは屑星達。
欠片をざっとばら撒けば、天の川。
取り零したものは、空を駆け抜ける箒星。
星の塔には、少女の他に誰も住まない。
堅く閉ざされた塔の中、
少女は初めから終わりまで独りきりでも寂しくはない。
星に埋もれて星を手にした少女は
ただ白く無垢で、
言葉も持たずに静寂を唄っている。
日毎夜毎に飽きる事なく
繰り返し、繰り返し。
少女がどんなに星を飾ったとて、
夜の最果てよりも遠い場所にある星の塔は、
少女の爪先程にしか、
その高さを変えはしない。
それでも少女は待っている。
持てる全ての星を夜へと貼り付け、飾り終える時を。
高さを失くした塔を降り、その手が温もりに触れる日を。
風に乗ったその透明な声が、
緑を芽吹かせ水に流れ、色彩豊かに唄を奏でる事を。
星の残り火を宿した少女の指先が、
仄かに光って闇に溶け、遥かな時を数えている。
日毎夜毎に途切れる事なく
指折り、指折り。
星の塔には少女の他に誰も住まない。
堅く閉ざされた塔の中、
約束の時を待って居られるから、
少女は初めから終わりまで独りきりでも寂しくはない。
星の塔に住まう少女は、
塔の中に横たわり、
周囲に積み上げられた数多の星の中、
光に埋もれて眠りながら、
遥けき地上の夢を見る。
#掌編 #詩 #物語 -
8月は19日~20日に #俺の本を読め !さんに参加します\(*Ü*)/\(*Ü*)/
#twnovel #掌編 集 『#言葉を編む時間』と過去折本でお迎えします。
間に合えば掌編のPDF無配やりたいなあ…( ᐛ )~一次創作オンリーイベント~『俺の本を読め!』 | pictSQUARE - オンライン即売会サービス https://pictsquare.net/fhqtjtexvzj9gnxqtpm93hnt87ckvjd0
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【遥飛蓮助名義の活動にて(@szkhkzs)】
🥳#ふふふのZINE 今週土曜8日から開催🎊
あと3日!\(*Ü*)/\(*Ü*)/
今まで書いた #一次創作 #twnovel #掌編 の中から、可愛い話からドキッとする話までギュッと詰め込んだ『#言葉を編む時間』でお邪魔します。🗓2023年7月8日(土)~10日(月)
⌚全日11時~16時
📚新潟市西区内野町429-2
✂美容室SUMMITさん2階フリースペース公式Twitter:https://twitter.com/fufufunozine
公式サイト: https://fufufunozine.themedia.jp/ -
【遥飛蓮助名義の活動にて(@szkhkzs)】
🥳#ふふふのZINE 今週土曜8日から開催🎊🗓2023年7月8日(土)~10日(月)
⌚全日11時~16時
📚新潟市西区内野町429-2
✂美容室SUMMITさん2階フリースペース気付いたら今週でした(笑)
今まで書いた #一次創作 #twnovel #掌編 の中から、可愛い話からドキッとする話までギュッと詰め込んだ『#言葉を編む時間』でお邪魔します。公式Twitter:https://twitter.com/fufufunozine
公式サイト: https://fufufunozine.themedia.jp/ -
【遥飛蓮助名義の活動にて(@szkhkzs)】
🥳#ふらぺら ありがとうございました👏✨
福岡のブックカフェふらっとぺらっと、ならびにWebShopふらぺらにて #一次創作 #twnovel #掌編 『#言葉を編む時間』購入いただきありがとうございました。
初めて印刷所にお願いした本としては良き良きな出来と、失敗の経験が出来て大変良かったです。
個人頒布は8月以降のイベントを予定しておりますので、今後もよろしくお願いします。ふらぺら公式Twitter:https://twitter.com/furapera
公式サイト:https://furapera.wixsite.com/2023 -
🥳#ふらぺら ありがとうございました🙌✨
福岡のブックカフェふらっとぺらっと、ならびにWebShopふらぺらにて #一次創作 #twnovel #掌編 『#言葉を編む時間』購入いただきありがとうございました。
初めて印刷所にお願いした本としては良き良きな出来と、失敗の経験が出来て大変良かったです。
個人頒布は8月以降のイベントを予定しておりますので、今後もよろしくお願いします。ふらぺら公式Twitter:https://twitter.com/furapera
公式サイト:https://furapera.wixsite.com/2023 -
#一次創作 #twnovel #掌編
🥳WebShopふらぺら今日21時まで🙌✨期間限定販売は今日21時まで!
他の作品と合わせて購入しても送料一律400円!
拙作の個人頒布は8月までないのでこの機会に是非 :blobtoofast:#言葉を編む時間 /遥飛蓮助 https://furapera.stores.jp/items/6477dfbe888a2e0044b1b885
webショップ:https://furapera.stores.jp/#ふらぺら 公式Twitter:https://twitter.com/furapera
公式サイト:https://furapera.wixsite.com/2023 -
🥳#ふふふのZINE 委託参加します🎊
🗓2023年7月8日(土)~10日(月)
⌚全日11時~16時
📚新潟市西区内野町429-2
✂️美容室SUMMITさん2階フリースペース#一次創作 #twnovel #掌編 を纏めた『#言葉を編む時間』でお邪魔します。
福岡の #ふらぺら に続いて、新潟でも良いご縁がありますように🙏✨公式Twitter:https://twitter.com/fufufunozine
公式サイト:https://fufufunozine.themedia.jp/ -
【遥飛蓮助名義の活動にて(@szkhkzs)】
🥳#ふふふのZINE 委託参加します🎊🗓2023年7月8日(土)~10日(月)
⌚全日11時~16時
📚新潟市西区内野町429-2
✂️美容室SUMMITさん2階フリースペース#一次創作 #twnovel #掌編 を纏めた『#言葉を編む時間』でお邪魔します。
福岡の #ふらぺら に続いて、新潟でも良いご縁がありますように🙏✨公式Twitter:https://twitter.com/fufufunozine
公式サイト:https://fufufunozine.themedia.jp/ -
#一次創作 #twnovel #掌編
🥳WebShopふらぺらオープン🙌✨今日から7月1日まで期間限定販売しております。
他の作品と合わせて購入しても送料一律400円!
この機会にどうぞ :ablobcatheart:#言葉を編む時間 /遥飛蓮助 https://furapera.stores.jp/items/6477dfbe888a2e0044b1b885
webショップ:https://furapera.stores.jp/#ふらぺら 公式Twitter:https://twitter.com/furapera
公式サイト:https://furapera.wixsite.com/2023 -
🥳ふらっとぺらっとpage2 開催🎊
🗓2023年6月24日(土)11時~17時
📚福岡市中央区天神3丁目10−27
福岡天神チクモクビル1階カフェ『#言葉を編む時間』委託と、 #ぺらふぇす 参加の #一次創作 #掌編 #折本『hair』展示でお世話になります🐑
ブックカフェで、6/25からのweb通販で、よいご縁がありますように🙏✨#ふらぺら公式Twitter:https://twitter.com/furapera
公式サイト:https://furapera.wixsite.com/2023 -
【#そこ文ネップリ 再配信のお知らせ】
🥳6月11日『そこの路地入ったとこ文庫・第八回』開催記念便乗配信!
📖そこ文公式Twitter:https://twitter.com/sokoroji_kyoto6月11日(土)まで #折本 のネプリ再配信します。
#そこ文 ミニ回に参加した #一次創作 #掌編 作品になります。
お近くのセブンのコピー機・ローソンやファミリーマート等のコピー機から印刷できます。
BOOTHでも配信中ですので、ぜひDLして自宅のプリンターやコンビニで印刷してみてください!
➡https://szkhkzs.booth.pm/ -
【#そこ文ネップリ 再配信のお知らせ】
🥳6月11日『そこの路地入ったとこ文庫・第八回』開催便乗配信!
📖そこ文公式Twitter:https://twitter.com/sokoroji_kyoto6月11日(土)まで #折本 のネプリ再配信します。
#そこ文 ミニ回に参加した #一次創作 #掌編 作品になります。
お近くのセブンのコピー機・ローソンやファミリーマート等のコピー機から印刷できます。
BOOTHでも配信中ですので、ぜひDLして自宅のプリンターやコンビニで印刷してみてください!
➡https://szkhkzs.booth.pm/ -
【ネプリ配信中!】
12月1日から11日(12日)まで #折本 #掌編 のネットプリント配信中です!
セブンイレブンのプリント番号を再登録しました。12月11日(日曜日)のそこの路地入ったとこ文庫ミニ回 #そこ文 に二冊一組で参加します!
BOOTHでも配信中:https://szkhkzs.booth.pm/
※ネットプリントとは※
お近くのセブンのコピー機・ローソンやファミリーマート等のコピー機に番号を入力して印刷するサービスです。 -
CW: パルヤマのss(百合要素が強い)
パルスィはヤマメにキスされるのが好きだった。いつかそのまま唇や舌を食いちぎってくれるような気がした。
ちょこんと唇の先をつけるだけのキスしか知らなかったヤマメに舌を絡ませて吸い上げることを教え込んだのはパルスィだ。あらゆる愛撫は、ヤマメにとって未知で、乗り気でないものだったが、一度教えてさえしまえばむしろ貪欲に求めてくるようになるのでパルスィには愉快だった。
「ヤマメ」
「なに」
「キス、上手くなったわね」
「…………」
ヤマメは顔を真っ赤にした。
「ふふ。気持ちだけはずっと初心なんだから」
「は、恥ずかしいな……」
「もっと上達する方法教えてあげよっか?」
「うん?」
ヤマメの耳元でパルスィはそっと囁く。
「噛み千切ってしまうのよ……一番気持ちいいタイミングで。舌を……唇を」
薄ら笑いを浮かべながらパルスィはヤマメを見た。
ヤマメは最も悪辣な笑みを浮かべていた。
パルスィのスカーフをぐいと掴むと、ヤマメはパルスィに顔を近づけた。
「焦らないで。私、食事は時間をかけてじっくり楽しむ性分なの」
パルスィの背筋を冷たいものが走った。 -
CW: ぬえ星のss
とらわれた……からだを。
赤い鉤爪と、青い荊棘。
首を、胸を、胴を、腰を、うねるように巻き付いてはなさない。
鋭利なようでいて、ぬえの翼は、触れても痛くはなかった。
むしろ、ほのかなぬくもりがじんわりと伝わってくる。
星は、いやな気はしなかった。が、困った。
「これから仕事なんだけど……」
ぼやく星に、ぬえはウィンクをした。
「私のことは気にしないで」
「気にするわ。誰が、鵺に巻き付かれた本尊を拝むっていうのよ」
「聖は拝むんじゃない? 聖は毘沙門天を信仰してて、かつ、私のことも崇拝してるしー」
「崇拝はしとらんだろうが」
「でも好きでしょ?」
「好きではあるでしょうよ」
「星は?」
「ああ?」
「聖は私のこと好き。星は?」
星は唇の端を吊り上げて笑ってみせた。
「それを私の口から言わせるためにこんな真似を? だったら、言わない」
「生意気な!」ぬえは息を鳴らした。「このままブチュって輪切りにしてやってもいいんだぜ……」
「しないくせに」
「まあね」
「それで、仕事なんだけど」
二度言ってもぬえは離れようとしなかった。仏の顔は三度までだ……。